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「トランプ交渉術」から日本人に対する世界の視点を読む

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  世界中のマスコミの予想に反し、ドナルド・トランプ氏がアメリカの第45代大統領に就任した。政治の世界とは無縁のビジネス界で成功した人物の大統領就任、波紋を拡げる大統領令の乱発、世界の政界、財界、マスコミ界を動揺させる攻撃的発言に誰もが戸惑いを隠せない状況だ。

  特に安全保障や経済に関わる度重なる攻撃的とも取れる発言をどう読むべきか各国マスコミ、専門家たちは分析しかねている。特にトランプ政権の対日外交の出発点ともなる安倍・トランプ首脳会談で過剰とも言える接待を受け、日本のマスコミは分析に追われている。在日米軍の費用負担増額要求、日本の為替操作発言、貿易不均衡による対日赤字批判などの事前の発言は姿を消したかのようだった。
 

交渉術「Door in the face」

 トランプ氏の発言を聞きながら、交渉術でよく使われるDoor in the face(返報性の原理)が頭をかすめた。相手が飲めない高い要求を突きつけ、断った相手が負債を感じ、何か要求に答えないと申し訳ないという心理にかられ、譲歩するというビジネスに応用される人間心理だ。本当の狙いは相手が断るしかない要求ではなく、その次ぎにハードルの高い要求を飲んでもらうことにあるというものだ。 

 首脳会談前に、日本に対して過激な発言が相次ぎ、日米同盟や経済関係を壊したくない日本側は真意を読めずにあたふたした。ゴルフの最中に無理難題を持ちかけられた場合の対応にばかり気を取られた印象も受ける。しかし、結果は信頼関係構築のために大きなステップを踏むに止まった。 

 トランプ氏は大統領就任後、英国のメイ首相と会談した際、「私は短い時間で人間関係を作るのがうまい」と述べた。世界で最もオープンマインドで知られるアメリカ人の中でも、トランプ氏はズバ抜けてオープンマインドだ。過激な発言で敵も多いはずだが、誰とでも人間関係を作れる能力を持っている。 

日本人ビジネスパーソンはどんなタイプだと思われているか?

 一方、世界に先駆けて過剰なまでの接待を安倍首相に行ったことの意味が解明されていない。それを解く鍵の一つが、日本人は原則よりも現実を重視するビジネスパーソンと見られていることだ。かつて1960年、フランスのドゴール大統領は訪仏した池田勇人首相との会談後「トランジスタラジオのセールスマンが来た」と侮蔑の意味も込めて発言したことは有名な話だ。 

 今は、各国の首脳が経済問題に最優先で取り組む時代だが、トランプ氏がイスラム圏7カ国の人々の入国を禁じる政策を打ち出した途端、メイ首相、メルケル独首相、オランド仏大統領などは政策を強く批判した。これに対して安倍首相は国会答弁で他国の入国政策に口を出すつもりはないと述べた。 

 メイ首相は、EU離脱を控え、米国との関係強化を最優先に考え、わざわざ15分の会見のためにワシントンまで飛んだのに、その後の入国政策で、彼女はトランプ批判を行い、英国下院議長は、トランプ氏が公式訪問しても議会演説はさせないとまで言い放った。 

 ビジネスマン出身のトランプ氏は、経済より原則論を優先させるヨーロッパの政治家の態度は知っているはずだ。そのこだわりのない世界第3位の経済大国を、まずは味方につけることを優先させたとも言える。ビジネスマンとして熟練したトランプ氏の交渉術が、どのように政治に活かされ、どのような弊害を生むのか未知数な部分も多い。 

 冷戦後の政治リーダーは、イデオロギーの時代から経済第一の時代に移行した中で、特に欧米のリーダーは完全にマインドセットできずにいる側面もある。そんな中に登場したビジネスマン出身の大統領は、グローバリズムに取り残され、疲れた人々に、どう答えていけるのか注目されるところだ。

コラム60 2・13・2017記

安部雅延 (あべ まさのぶ)

国際ビジネスコンサルタント。欧米アジア・アフリカ地域での豊富なグローバルビジネス経験あり。フランス・レンヌの国際ビジネススクールで20年以上、グローバルマネジメント、異文化間コミュニケーション、交渉術、比較文化などの教鞭を取る。日本企業の研修経験豊富(日産自動車、日立、日本通運、東芝、富士通、NEC、ニッスイ、ホンダロジスティックス、DeNA、三菱東京UFJ銀行など多数)。さらにフィリップス、HSBCなど外資系企業も多数。特にグローバル人材開発に特化し、最新の理論、現在進行中のグローバルビジネスへの関与等による豊富な経験談、データ、実際に起きた事例を駆使するのが特徴。国際ジャーナリストとしても活躍し、雑誌などに寄稿。これまでに30カ国以上を取材し、世界の政財界、学者へのインタビューも多い。

著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版)、訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

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東後勝明

兵庫県生まれ。早稲田大学教育学部卒業、同大学専攻科修了。ロンドン大学大学院教育研究科修士課程修了、博士課程修了。英語音声学、英語教育学専攻。早稲田大学教授、2008年定年退職、名誉教授。1972年~1985年9月、NHKラジオ「英語会話」の講師。英語学・英語教育に関する著書30冊以上。

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