アイデンティティ確立と強化に必須の教育とは?
なぜグローバル人材教育のイメージが悪いのか?
グローバル人材を育てたい日本企業は増える一方、「自己主張し、上司に従わず、経営陣を批判するような人材は必要ない」という経営者の声もよく聞く。グローバル人材に自己主張が激しいとか、不服従で周囲の空気が読めないなどのイメージがつきまとっているからだ。
異文化環境では人間力、対応力を発揮するタフな人間が必要な反面、上司に「私はそうは思いません」などという人材は扱いにくいと敬遠する会社も少なくない。日本では日常生活でも相手の空気を読みながら、なるべく対立を起こさないよう、時には自説を曲げてでも周囲に同化しようという文化がある。
そんな日本人が異なった文化的背景を持つ人たちと協業してみると「時間を守らない」「言った通りにやってくれない」「ミスをしても謝らない」「説明したのに理解されていなかった」など、言葉は通じているはずなのに伝わっていないことが多く、結果を出せずに悶々とする日本人は少なくない。
日本人にとって当り前なことがそうではないことに遭遇すると、ストレスを感じ、海外では日本駐在員の職場内引き籠もりやうつ病になる現象が起きたりしている。そこで「なぜ、日本人は礼儀を大切にするのか」「なぜ、時間厳守なのか」「なぜ細かいことにこだわるのか」など、改めて日本人の特性を考えさせられることが多く、アイデンティティを明確にすることが求められる。
欧米諸国のアイデンティティ教育事情は?
実は欧米諸国を含む多くの国々では、アイデンティティ教育はかなり重視されており、その根幹は国語教育にある。日本は残念ながら敗戦で愛国教育へのアレルギーもあって、アイデンティティ教育は半世紀以上軽視され、日本の精神も軍国主義に繋がるという警戒感から遠ざけられてきた経緯がある。
バブルがはじけた1990年代、それまで日本の成功の背景にあるとされた徳川家康や豊臣秀吉、福沢諭吉などの指導者論がビジネス雑誌を賑わせていた。それが完全に姿を消し、アメリカのビジネススクールで教える内容が幅を利かせ、アメリカ帰りのMBAホルダーが重用されたが、うまく機能しなかった。
その後、さまざまな試みをしているが、皮肉なことにアメリカ滞在中に在米日系企業から日本的経営や生産システムを学んだカルロス・ゴーン氏が、自動車メーカー、日産のトップに就任し、再生させ、成功モデルとなった。そこで浮上したのは、日本的やり方の優れた部分とそうでない部分の仕分けをして、優れた部分をどう普遍化し、間違った部分を修正するかということだった。
アイデンティティ確立と強化に必要な教育とは?
アイデンティティ教育は、単純なナショナリズムを植えつけることではない。国語を学ぶことは言語能力を増すことで思考力を強化し、日本の歴史の中で培われた様々な遺産を相続することに繋がる。正しい言語運用能力は、コミュニケーションの精度を高めることにも繋がる。
フランスなどは、言語教育に相当特化しており、小学校の最初のテキストは詩から入り、フランス語及びフランス文学、さらには哲学の素養を養っていく教育を行っている。筆者は高校の国語教師だった父親から徹底した国語教育を受けたおかげで、その後、グローバル交渉の場やグローバルマネジメントで、その国語力は外国語に置き換えても非常に役に立っている。
国語力は、日本国民としてのアイデンティティ強化に貢献しており、日本の経営者が警戒するにわか個人主義に陥ることも防いでくれる。アイデンティティには、会社員として組織のアイデンティティもある。無論、企業自体もグローバル化でアイデンティティに変更を加える必要に直面しているが、実は企業人としてのアイデンティティの強化も必須の課題だ。
コラム75 4・15・2018記