なぜ、経営トップは不祥事を把握できないのか?

なぜ、経営トップは不祥事を把握できないのか?

不祥事が放置された原因

  神戸製鋼のデータ改ざん問題が大きく報じられる中、この数年、大企業の不祥事は枚挙に暇がない。東芝、日産、東洋ゴム、タカタ、オリンパスなど、粉飾決算、違法な最終安全チェック、データ改ざんなど、グループ企業全体を揺るがす問題に発展している。

 同時に、企業トップの社長や会長、CEOと呼ばれる人たちが、ほとんどの場合、不正発覚まで事実を把握していなかったことが明らかになっている。不祥事が放置された原因は、株主重視のアメリカ的企業運営にシフトし、短期業績が追求されるプレッシャーから一線を超えたとか、役員幹部に権力が偏り、上層部で秘密裏に決定が下され、従業員が進言できない社内体質があったなど様々。

  ただ、言えることは、最近導入が進むコンプライアンスやCSR、コーポレート・ガバナンスといった企業ルールの制度化、体制整備はあったとしても、それが正しく運用され、しっかり機能していたかが疑問視されていることだ。体制づくりをしても、その体制に魂を入れ、持続可能な状態に保ち、効果を確認できなければ、あっと言う間に形骸化してしまう。

 法律と同じで、法律を定めるとその裏をかき、抜け道を探すのが人間の性。上からのプレッシャーに「悪いこととは思うが、これぐらいなら明るみに出ることはないだろうし、許されるだろう」といって一線を越えてしまう。小さな嘘が大きな嘘に発展するように不正行為はエスカレートし、その不正行為は会社の存続に関わるような重大問題に発展するケースも出てくる。 


誰が不正行為を止められるのか?

では、誰が不正行為を行わないよう踏みとどまらせることができるのかと言えば、それは組織のトップに立つ人間以外にはありえない。人の持つ勤勉さやモラル、労働規範をあてにするのは従来の日本的経営と言えるが、それは終身雇用と株主より社内の論理優先の経営スタイルに支えられてのことだった。

 右肩上がりで収益が伸び、運転資金は系列バンクに支えられ、損益はグループ内で吸収できた時代は終焉を迎えている。企業は激しい国際競走と海外投資家の目に晒されている。そんな中、日本独特の性善説や愛社精神、家族的経営などで経営すること自体が困難になっている。

 人間は追い込まれると苦しまぎれに不正に手を染めるように、組織でも同じようなことが起きてしまう。不祥事発覚で経営トップが認識していたかは責任問題として当然追求すべきだが、たとえ認識していなかったとしても責任は免れない。


経営者に必要な姿勢は?

  不祥事が起きると報・連・相のコミュニケーションが不足していたことがよく指摘されるが、不正行為に手を染めるグループの代表が、それをそのまま上司に報告することなどありえない。つまり、トップは部下の報告を信じる以前に、自ら進捗管理のための情報収集を行い、自ら不正行為を見抜くくらいの姿勢が必要だという話だ。

 無論、不正行為を許さない決意と確固たる意志を日々社員に示すことや、不正防止の管理体制の運用を自ら直接行うことも重要だ。それは不正行為を隠蔽させないことでもあり、さらには不祥事発覚後の隠蔽は、恐ろしい結果をもたらすという認識を社内に植えつけることにも繋がる。

 つまり、組織は時間が経ち、肥大化することで必ず腐敗し、弛みが生じるという認識を持ち、トップは企業が利益追求のあまり、一線を超えることは企業の公共性、公益性という観点からも絶対にあってはならないという確固たる信念を持つべきで、それが守れないなら企業活動を止める位の決意が必要だ。 


コラム69 10・16・2017記
<なぜ、経営トップは不祥事を把握できないのか?>


グローバル人材育成研修講師
安部雅延
研修先は大手自動車、銀行、メーカー、商社、外資系企業など多数。
「週刊東洋経済」,「正論」,「新美術新聞」など多数執筆経験のある国際ジャーナリスト。フランスのビジネススクールでグローバルマネジメントの教鞭を取る。
著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版)、訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)

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