男性中心社会の限界と成熟国家のあり方

男性中心社会の限界と成熟国家のあり方

 異文化研究の分野で世界的に知られるオランダの社会心理学者、ヘールト・ホフステードの国民特性の分類の中に「男性らしさ、女性らしさ」の文化分類モデルがある。それによると日本は世界的に見てもトップクラスの男性らしさ指標が高い国とされている。逆に男性らしさの数値が低いのはスウェーデンなどの北欧諸国やアジアではタイも数値が低い。

 この分類は男性が社会の主要ポジションを占め、企業では管理職、国家では政治家の大多数を男性が占めていることを意味する。男性は競争を好み、他の人との優劣を追求しがちなのに対して、女性らしさの強い社会では、生活の質が注目され、支え合うことを重視するという文化的モデルとなる。

 私は個人的に日本人の場合、ホステードの分離は一部当てはまるが、自己主張とか主体性が強いという意味では、まったく当てはまらないと思っている。無論、男性中心社会であることは事実だが、問題なのは、それが限界に達していることが、さまざまな場面で証明され始めていることだ。

 例えば、安倍政権で噴出している森友学園に国有地を極端な低価格で提供した問題や加計学園の獣医学部新設の不透明とされる政府の認可問題などを見るにつけ、そこには出口のない面子を重んじる男社会の論理が見え隠れする。関係した省庁の官僚を含め、政権中枢に対する忖度が善くも悪くも働いたことは周知の事実だが、皆が保身のために隠蔽に忙しい印象だ。

 批判される側は、面子を守るために証人喚問を拒否し、批判する側は安倍政権の面子潰しに必死になっている印象だ。築地市場の豊洲移転問題で揺れる東京都の都議会選挙でも、男中心の自民党は大敗し、女性の小池都知事が率いる都民ファーストの多くの女性候補者が当選した。

 無論、女性が男性に取って代われば物事がうまくいくなどと言いたいわけではない。男性と女性にはそれぞれ得意分野と不得意分野があり、短期間の戦時では、男性リーダーの方が力を発揮しやすい。しかし、成熟社会では女性の方が有用だ。例えば大手家電メーカーは近年、女性の意見を積極的取り入れた製品開発で成功している。

 洗濯機や冷蔵庫、掃除機は女性が使う事の方が多かったのに、それを開発するのは競争好きで高機能ばかりを追求する男性エンジニアで、女性消費者は無視された。それはマネジメント分野でも、非生産的な意味のない男の面子の争いで仕事が前に進まないことが表面化し、意思決定プロセスが曖昧化し、責任の所在も不明確になる現象が起きている。

  確かに決断力や統率力は男性の方があるかもしれない。しかし、決定に到るプロセスに女性が関与することや、プランの実現に向けての細かい心配りは女性の方が得意だ。そんな適正も重要だが、もっと重要なことは、男性と女性が同等なコミットメントをする組織を作ることだ。組織が男性の論理だけで動くことは片肺飛行する飛行機のようで、いつ墜落してもおかしくない。

  地球に同数存在する男性と女性は、補完し合う関係で機能している。優劣も価値の違いもない。その意味で男社会に風穴を明ける意味は大きいが、男に取って代わろうとか、自分の恨みを晴らす目的で頂点をめざす女性も危険と言える。

  一端、野党に転落した自民党が何を反省したのかは知らないが、男の論理が蔓延していることだけは、誰が見ても明らかだ。成熟国家をめざす日本の政治のあり方からはほど遠い。

 

コラム66 7・18・2017記

男性中心社会の限界と成熟国家のあり方

安部雅延
「週刊東洋経済」,「正論」,「新美術新聞」など多数執筆経験のある国際ジャーナリスト。
フランスのビジネススクールでグローバルマネジメントの教鞭を取る。
グローバル人材育成研修の研修先は大手自動車、銀行、メーカー、商社、外資系企業など多数。
著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版)、訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)。

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