異なった文化背景を持つ人々との協業の現場では、できるだけ摩擦を避け、円滑に業務を進めことが求められる。その一方で人をどう育てるかも重要な課題です。優秀といわれたナショナルスタッフが期待したほどの結果を出せないことは、特にアジアでは多く、必要なレベルまで引き揚げるための人材育成が求められています。
しかし、日本人と同じようには理解しないナショナルスタッフに対して、一方的なやり方の押しつけをしても、ほとんど効果はありません。「分かりました」という返事が、あてにならないことは、多くの海外駐在経験者が経験しています。「砂地に水をまく様に、人材育成は投入しても結果に繋がらない方が多い」と諦め気味の声も。
そこで重要になるのが、相手に適した指導法を見つけることですが、技術系の様な世界共通言語である数学や科学を共有できる分野でも、文化を超えた共通理解は容易ではありません。実際、ほとんどの従業員が理系という職場でも、「指示したことを期限までにやらない」「進捗共有がまったくできていない」などが不満の声が聞かれます。
その背景には、相手そのものを深く理解し、適切なアドバイスや指導をすることは容易でないという問題があります。日本人同士でさえ、今では共有も共感も難しい時代、異文化では何倍も相手を理解することは困難です。同じ単語も、ある国の人にはポジティブでも、他の国の人にはネガティブに受け止める可能性があります。
そこで重要になるのが、聴き上手になること。「聞く」は受け身ですが、拝聴する意味での「聴く」は、主体的に相手のいうことを深く理解しようという強い意志が根底にあります。具体的には双方向のフィードバックを繰り返すことですが、フィードバックも結果的に行動に反映さえなければ、相手にとっては理解されたことになりません。
では、聴き上手の初歩は何かいえば、自分の意図を伝える前に相手の理解に徹するということ。日本の優秀なリーダーほど、適切な指導や指示を急いで出す傾向にあります。最小限聞いて、自分の指示や提案をしまう。優秀だから、そのアドバイスも指示も適切なのですが、相手が日本人出ない場合は、聴くことを軽視し、指示を急いで出すことは誤解を招くことになりかねません。
人間は本来、自分が理解されたという満足感がなければ、相手の意見は受け入れず、モティべーションも高まりません。それに最新の有効な指導方法は、相手が日本人かどうか関わらず、仕事をする本人が自ら気づき、自ら考え、本人自身行動に移すことを施すコーチングの時代といわれています。指導者は支援者であるいう姿勢に徹することが重要です。
指導者は、自分の能力があることを示し優位に立とうと考える場合が多く、部下が聞く質問には全て正解を持つ必要があるとの思い込みが、特に日本のリーダーには強いといわれています。しかし、部下本人が気づく前に答えを出してしまえば、部下は思考停止し、自分で答えを出せなくなってしまいます。
そこで、相手に気づきをもたらす適切な指導をするためには、聴く姿勢が重要なわけです。そのためには自分の見方や考え方を一切表に出さず、「私は何も知らない」という姿勢で、相手に教えてもらうという態度に徹することが重要です。つまり、脳ある鷹は爪を隠す姿勢です。
コラム82 11・15・2018記
グローバルマネージメント研修講師
「週刊東洋経済」,「正論」,「新美術新聞」など多数執筆経験のある国際ジャーナリスト。
フランスのビジネススクールでグローバルマネジメントの教鞭を取る。
グローバル人材育成研修の研修先は大手自動車、銀行、メーカー、商社、外資系企業など多数。
著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版)、訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)。
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