リーダーを堕落させる御神輿経営のリスク

リーダーを堕落させる御神輿経営のリスク

 バブル経済が弾けた1990年代初頭、日本的経営の代表格の一つ、御神輿(おみこし)経営の弊害が指摘されました。有能、無能に関わらず、リーダーになった人間を部下が神輿のように担ぐ経営スタイルは、江戸時代に無能な殿様でも有能な家来たちが担いで統治する習慣がルーツといわれています。

 そのため、リーダーシップよりもリーダーを担ぐ部下の忠誠心、自分を無にして仕える有能な番頭精神、ご主人様の意図を忖度して実行するスキルが重視されてきました。逆に言えば、リーダーの資質はあまり問われず、神輿に乗るだけで実権を持つのはナンバー2など番頭的存在でした。

 そんな構図は少しずつ消えたとはいえ、上司にゴマをすり、ご機嫌をとる部下が消えたわけはなく、空気を読み、人間関係を調整し、上司の顔を立てるのが今でも世渡り上手といわれています。大企業トップが社会の政治的思惑から消去法で最も敵が少なく、当たり障りのない有能とはいえない人物が選ばれる例も未だにあります。

 本来は日本には天皇を中心とした忠臣の精神があり、儒教の影響をあって親に孝行、組織に忠誠というのは、優れた精神的伝統とされていました。しかし、形だけが残り、肝心な中身の精神が抜け、形骸化したのも事実です。そこに日本人だけでは完結できないグローバル化の波がやってきました。

 フランスに30年以上関わった筆者は、日産自動車のゴーン前会長が20年間の間にどう変化したかが容易に想像できます。欧米で最も中央集権的とされるフランスから送り込まれたゴーン氏ですが、強権を奮うまでもなく、日本人部下はトップを担ぎ、強い抵抗はなかったことは想像に難くありません。

 いつしか神様のように祭り上げられたゴーン氏は、日産でゴーン帝国を築き、ルノーのみならず、ルノーの筆頭株主のフランス政府にも抵抗する皇帝になってしまったのでしょう。まさか一部の部下が半旗を翻すなど、想像だにしなかったほど、裸の王様になっていたのかもしれません。

 「日本の御神輿経営、人間信仰恐るべし」です。確かに日本人ではないゴーン氏は、御神輿経営で祭り上げられ、自分を見失ったかもしれませんが、今では日本人経営者も会社の不祥事や不正会計を隠蔽し、株主や一般消費者を欺き、嘘の業績で資金を集め続けるとんでもない経営陣もいます。

 むしろ、ゴーン氏は会社の金を私的流用した背任行為はあったとしても、会社に大きなダメージは与えておらず、むしろ業績を伸ばしていたわけですから、不祥事を長期に隠蔽し、決定的ダメージを会社にもたらした経営者の罪の方が重いといえるかもしれません。

 御神輿経営の弊害の典型は、トップの責任を取る精神の欠如です。大企業は特に経営判断一つで巨額の損失を出し、東芝のように会社存亡の危機に追い込まれるケースもあります。しかし、経営判断を間違ったトップが司法で裁かれることはほとんどなく、高額の退職金も受け取っています。

 どちらにしても高貴な忠孝の精神を失った御神輿経営は一掃するべきでしょう。ガバナンスの欠如ばかりが強調されますが、リーダーの器やモラル、公人としての自覚の欠如は、あまり批判されません。海外に一歩出れば、部下の忖度はないし、ミスを冒しても言い訳し、責任転嫁するナショナルスタッフの多さに呆れることもあります。

 部下が言うことを聞かないのも当り前、ましてや尊敬などしてくれないという状況もあります。御神輿経営とはほど遠い状況の中、リーダーシップを発揮するのは大変です。しかし、そんな状況をくぐり抜けてこそ、本当のリーダーシップスキルが身につくと言えるでしょう。

 コラム85 2・16・2019記

 

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