リーダーは報酬よりもヴィジョン実現を重視すべき

リーダーは報酬よりもヴィジョン実現を重視すべき

 有価証券過少記載や特別背任の罪で取り調べが長期化している日産自動車のゴーン前会長が数年前、日本で最も高額報酬を受け取っていることを批判され、「グローバルスタンダードから見れば日本の報酬は低すぎる」と反論したことがありました。

 では、世界的に見てゴーン氏の指摘は正しいのでしょうか?世界の上場企業の経営トップの報酬をその国のサラリーマンの平均給与と比較した統計をみると、圧倒的なのはアメリカの企業トップの報酬で平均給与の265倍、英国が200倍と高額報酬を受け取っています。フランスは70倍で先進国では中位で、日本は最も低い58倍です。

 フランスの自動車メーカー、ルノーの会長でもあるゴーン氏の報酬が、フランスの経営者の中で最高額に達した時には批判が起きました。ゴーン氏は、実はフランスでも高額報酬に違和感を持たれていたわけです。日本の経済界は企業トップや経営幹部の報酬が低いと、海外から有能な人材が日本に来てくれないと懸念の声が上がっています。

 果たしてそうなのでしょうか?日本企業は本当に有能な海外のリーダーを必要としているのでしょうか?たとえばフランスやドイツで優秀なトップリーダーを海外から呼び込むことに必死という話を聞いたことはありません。フランスでは現在、企業内の賃金格差是正を求める声が高まっていますが、トップの報酬を減らせば、有能なアメリカ人や英国人が来なくなるという議論は聞こえてきません。

 まず、海外の突出した経営能力を持つ人間が、果たして報酬だけで会社を選んでいるかといえば、そうとはいえません。結果的に報酬は人を惹きつける要素として、その比重は高いとしても、彼らほど成果主義で働いている人間はいないので、結果を出せそうもない職場に近づくことはありません。

 日本との決定的な違いの1つは、日本が前提としてきたような終身雇用的労働観は存在せず、キャリアを積み、成果を出しながら、いかに自分の商品価値を高めるかに意識が集中していることです。たとえば日産のゴーン氏にとっては、巨額の負債を抱え、倒れ掛かった世界的大企業の再建を成功させたことが最大の成果であり、キャリアです。

 彼らの仕事への考え方は、その能力をアピールし、さらに自分を高く評価してくれる企業に移動していくか、自分の経験と結果を活かした他の可能性に挑戦するかという人生観です。無論、そこには自分の実績を正当に評価し報酬に反映してくれることも求められます。

 ゴーン氏が本当に望めば、アメリカの自動車メーカーのGMやフォードのトップに就きさえすれば、日産とルノー、三菱自動車3社から受け取っている報酬を1社から得ることも可能です。しかし、トップに高い報酬を払う根拠は、成果と表裏一体だということです。そのため失敗は彼らのキャリアにとっては致命傷になりかねない。自分を高く売れなくなるからです。

 日本企業トップに日本人以外が就く例は日産意外にもありますが、実は期待されるほどの成果が出せないケースもあります。それに会社が窮地に追い込まれた時に指摘された負の日本的企業文化の変革も、期待されたほどにはうまくいかなかったケースも少なくありません。

 たまたまハードワークを苦にしないゴーン氏はフランス人ではなく、商魂たくましいレバノン人だったことで日本企業との親和性が高かったのだと思います。報酬だけ見て有能な人材が集まってくるわけではなく、むしろ企業価値を高めるヴィジョンに共感し、その実現に努力を惜しまないリーダーを国内外から探すのが王道といえます。

 コラム84 1・16・2019記

 

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