【今月の海外赴任道コラムVol.38】



「日本人は世界でトップクラスのハイコンテクストの社会に生きる人間である」というのが、アメリカの文化人類学者、エドワード・T・ホール氏の調査から出された結論だった。今では、この結論に反論する人もいないが、このような比較文化的研究はあくまで相対的傾向を表しているにしか過ぎないことへの注意も必要だ。

 ハイコンテクスト、すなわちその地域の常識への依存度、共有度が高い国民は、コミュニケーションにおいて共有する常識は確認が必要なくコミュニケーションには論理の飛躍が生まれる。無論、日本人自体は論理の飛躍を感じず、互いに理解したと思っている場合が多い。

 だから9割の人が同じ反応を示したにも関わらず、他の1割の人が異なった反応を示すと「彼は空気を読めない奴」などと批判される。それは隠された常識が共有できていないことを意味することでもある。ビジネス上のコミュニケーションで重要性は言うまでもないが、自分の発言が他の文化圏の人々にとって論理が飛躍していると感じる日本人は少ない。

 無論、共有する常識が極端に少ないとされるアメリカ人やドイツ人、北欧の人々は、常識や価値観を共有していないのかと言えば、そうではない。例えば日本とは真逆なローコンテクストのアメリカ人は9・11テロに対して、共和党とか民主党といった政治信条を超えて、大多数がアフガン攻撃を支持した。1月のパリのテロ事件では、表現の自由の侵害への抗議デモに300万人以上が参加している。

 とはいえ、ハイコンテクスト社会に生きる日本人が意思伝達において文化の壁を超えにくい事実は否定できない。それを改善するためには、一つはロジカルに伝えること、もう一つはフィードバックを強化することが挙げられる。どちらも日本社会では軽視されてきたもので、ロジカルには「理屈っぽい」というイメージ、フィードバックには「物分かりがよくない」というネガティブなイメージがある。

 しかし、特にリーダーともなれば、文化の壁を超えて方針を示し、それらを部下に正確に伝えて目標共有し、実行しなければならない。そのためにはコミュニケーションスタイルの改善は不可避だし、実は国内の業務でもコミュニケーションの精度を高めるために、ロジカルに伝え、フィードバックを強化することは有効がある。

 ただ、ロジカルに伝えるためにはロジカルに考える思考回路が必要だ。高度で多様な情報を一定の枠組みから整理し、そこから論理的に導き出された結論(方針・目標)というプロセスがなければ、ロジカルに伝えることはできない。実際に日本の企業内でも、ロジカルに組み立てられた方針や目標がいい結果を生んでいるというデータがあるし、グローバル交渉でも同様なことがいえる。

 一方、フィードバックについては理解度の確認というだけでなく、結果的に共感を産み、それがモチベーションやチームワークの強化に繋がるという効果もある。さらに重要なことは上司が部下に自らフィードバックを求めることが重要で、部下の報告を待つという姿勢は間違いだ。上司がフィードバックを求めることが上司の意思決定の材料としても活用されることになるからだ。

 日本人は自分の話し方に論理の飛躍があるという自覚が薄い。しかし、文化的背景が異なれば「分からない方が悪い」などとは言えない。リーダーにとって伝える力が極めて重要だからだ。


2・17・2015記
<論理の飛躍がミスリードに繋がる>
安部雅延

アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

グローバルマネージメント研修、海外赴任前語学研修
http://www.isaac.gr.jp/business_course/