この数年、欧米の金融界を中心に役員報酬が高額すぎるという批判が相次ぎ、政治問題にまで発展しました。理由は、政府が公的資金を投入しなければ立ち直れない金融機関であるのもかかわらず、役員が高額報酬を受け取り続けてきたことが、一般市民の感覚とはかけ離れていたからです。

一般論として言えば、世界で最も役員報酬が高額なのはアメリカ、次いで英国、それに続き、フランスやイタリア、ドイツなどの国々が挙げられます。日本はその後ろにいます。もともと階層社会の強いヨーロッパでは、19世紀後半以降、王侯貴族の代わり商人であるブルジュワジーが台頭し、戦後は知能の高い人々が、社会的上層階級を形成してきました。

欧米諸国では、高い教育を受け、高度な知能を持つ人々は、社会的責任も生じる変わりに、その貢献度から高額報酬を得ることは当然とされてきました。フランスにはナポレオンの時代からノブレス・オブリージュ(高貴の義務)という言葉があります。今のフランスでは死語という人もいますが、指導者教育、エリート教育は国策にもなっています。

私もそんなフランスのエリート教育機関で教鞭をとってきた経験から、フランスのエリート教育の核心は、高い公共心と徹底した意志決定者としてのスキルを学ぶことにあると言えそうです。無論、ヒトのマネジメントやコミュニケーションスキルも重要ですが、これらは意思決定に含まれる内容です。

パリ政治学院という政治家や官僚を輩出するエリート養成校で教鞭をとっていた友人のエスマン氏は、かつてクレディ・リヨネ銀行の東京支店開設を担当した人物です。大学では、明治維新期の坂本龍馬、勝海舟などのリーダー論を教えていました。実践に繋がる世界の帝王学を学ぶことも重視されています。

一方、たとえば、日産のカルロス・ゴーン社長が卒業したエコール・ポリテクニーク(理工系高等専門学校)は国防省の所管で、革命記念日に軍服を着て行進しています。私の知る限り、これらのエリート養成校を卒業したフランス人は、愛国心が非常に強く、ある程度の高い規範や公共心も持っています。

無論、必ずしも役人や政治家になるわけではなく、ポリテクニークの卒業生の多くは民間企業のトップになっています。彼らは会社入社後、新卒の一般職の大卒の初任給の数倍を受け取り、最初からポジションも高いのが普通です。

20代で経営理論を学び、30代で企画立案と実践で鍛えられます。欧米のみならず、アジアでも欧米仕込みのエリートの昇進は極めて早くなっています。

彼らは失業しても、職探しでは管理職しか探さないし、雇う側も管理の専門職としか見ないのが普通です。若い社長も多いし、キャメロン英首相のような国のリーダーも年齢的には40代、50代が普通です。ただ、アメリカよりはヨーロッパのリーダーの方が、公共心が強いという印象です。

とはいえ、リーダーだからといって、一般職員の数十倍の報酬を得るのは問題でしょう。ましては権限と責任を明確に振り分けられている大企業のリーダーは責任をとる姿勢も要求されます。それにリーダーが腐敗すれば、その組織自体が崩壊していくことも肝に銘じるべきでしょう。

安部雅延

アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

コラム16   4・18・2013記

 

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