1980年代、コペンハーゲンでお寿司を食べるのはひと苦労でした。市内にある数店しかない和食店で食べるしかなく、その頃デパートの地下の食料品売り場にできた数席のカウンターだけの寿司店はいつも満席になるほど人気でしたが、追随して店舗が増えることもなく、なかなか良質な鮨を食べることが難しかったです。

 2020年代の現代、市内に和食店も増え、中華料理屋で鮨も出すという怪しい店も含め街を歩けば寿司店をたくさん見かけるようになりました。店によって質はまちまちですが、今ではネットでデリバリーを簡単に頼め、支払いはスマホで決済、店側も寿司をきれいに容器に盛り付けて、わさびも割りばしもクオリティーの高いものをつけてきます。価格は決して安くはないのですが、それでも居ながらにして、おいしいお寿司をデンマークで食べられるようになった時代に感慨深いです。

 30年前に魚屋で鮨として食べられそうな新鮮な魚と言えば平目と鮭、あとは輸入物のブラックタイガーを茹でるくらいしかなく、どうしてもまともな鮨ネタが食べたいと思った筆者は、地元の魚屋と交渉して、「セーシェル諸島あたりで一本釣りでマグロが釣れる時が時々あるんだが、丸々1匹買ってくれるなら取り寄せてやる」と言われ、市内の日本企業の駐在員や大使館員家庭に興味があるか聞いてみると、どのお宅も金額はどうでもいい、手に入るのならぜひ。という返事だったため、魚屋にすぐ手配するよう頼み、一体どれだけの大きさと金額になるのか想像もつきませんでしたが、1匹購入することになりました。マグロは魚屋が大きな柵というかブロックくらいの大きさにさばいてくれ、筆者もそれをビニール手袋をはめてひと固まりずつビニールに入れて秤で量って値札をつけるのをバックヤードで手伝い、各家庭に筆者自ら車で配り歩きました。あれだけの手間をボランティアで行ったのは自分がただひたすら新鮮なマグロを食べたかったから。駐在員に聞けば、出張でロンドンやパリに行く際に奥さんに言われて魚屋に行ってたのでこれは助かる・・・と喜ばれたものです。2-3年の間に5,6回は取り寄せたかと思います。マグロが手に入ると家族や友人を招いて手巻き寿司パーティーを開きました。おいしいものを食べて怒る人はおらず、皆と楽しい時を過ごしました。

 今ではコペンハーゲン市内のデパート内に無印良品MUJIのロゴとともにワンフロアを埋め尽くしていますし、歩行者天国のストロイエにはユニクロまであるコペンハーゲンになりました。消費税25%が内税なのでどの商品も日本国内の価格とは比べ物にならない金額ですが、それでも日本の良質な商品は人気です。MUJIでおいしそうな日本食材も手に入るようになり、デンマーク人にとって日本は遠いアジアの国から、より身近な国になりつつあるようです。