多くの人々を率いるポジションに立つ人間は、だいたい孤独なものです。
自分に課せられた仕事へのプレッシャー、物事を決断する困難さ、さらには自分を嫌う部下の存在など、理解してくれる人は誰もいない場合が多いからです。
その孤独さに耐えられない人間は所詮、人の上には立つべきでないでしょう。
ただ孤独に強い人間といえども、弱い部分がない人間はいないので、どこかで本能的に孤独を回避する行動をとってしまうこともあります。
その多くは、誘惑という形で忍び寄ってくるものです。
例えば、結果を出すために部下には厳しい決断を下さざるを得ない状況で、つい人気取りを先に考えてしまう誘惑にかられるのは、その典型と言えます。
例えば政治家は不人気な増税や消費税引揚げ、年金支給年齢の引上げなど、国民が嫌がる政策の実施を先送りする傾向があるのは好例です。
企業のリーダーも、昨年のオリンパスの粉飾決済事件や、1990年代に起きた山一證券を自主廃業に追い込んだ損失隠しなどに見られるように、歴代トップが自らの保身のために問題を先送りしたことに一因があったことが指摘されています。
今の大企業のトップの多くは、創業者ではなくサラリーマン社長で、社長の座をめざして働いてきた人も少なくありません。
結果として、ポジションへのこだわりは人一倍強く、自分がトップでいる時には、大きな事故もなく任期を終えたいと考える人間も少なくありません。
だから、責任問題に発展するような事柄については、問題を見て見ぬふりをしてみたり、違法は処理で切り抜けようとしたりするケースも出てくるわけです。
これは企業だけでなく、例えば、学校のいじめ問題で、多くの事実が隠蔽されるのも、同じような動機から起きている場合があります。
私の父は公立と私立の高校の校長を経験しましたが、自分が校長や教育長時代に学校で放火事件や深刻ないじめ問題(生徒の自殺等)、生徒の非行による刑事事件などが起きると、退職後に勲章を貰う道は絶たれると言っていました。
だから、保身のために本能的に隠蔽に走るわけです。
自分は教育者としてまっとうな道を歩んできたのに、生徒の不祥事で名誉が汚されるのは御免だという考えなのでしょう。
どうせ学校という閉ざされた空間で起きたことなので、学校側が口裏を合わせて隠蔽すれば、問題はないと考えやすいのです。
しかし、結果としてリーダーの保身は組織に多大な被害をもたらします。
最近でこそ、リーダーの失態に対して法的な厳しい判断が下されることもありますが、日本は欧米よりは、はるかにリーダーに甘いのが実情です。
ミスは組織で吸収するという日本特有の慣習も影響しているでしょう。
リーダーは部下から尊敬されるに越したことはありませんが、仕事上ではそれが最重要というわけではありません。最優先されるべきは結果を出すことであり、組織への貢献という公的意識と責任感を持ち、保身の誘惑に屈しない断固たる態度が要求されるのです。
安部雅延
アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。
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