日本経済新聞は英国のフィナンシャル・タイムズからの影響が強いと言われている。世界にはウォールストリート・ジャーナルや英エコノミスト誌など、世界のビジネスマンが読むメディアが存在する。ヨーロッパには、パリで発行されているインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙があるが、発行元はニューヨーク・タイムズ紙だ。

 これらの新聞を読み比べてみると、やはり日本経済新聞には違和感を持つことが多い。大体、世界的メディアの一面トップは、共通する場合が多い。一見、経済とは関係なさそうなイラク情勢やエジプト情勢も一面を飾る。周知のとおり世界の投資家たちは、世界情勢を読みながら判断を下している。

 実際に欧米のビジネスリーダーと接すると、世界情勢に対する知識は豊富で、常に更新されている。英国の某カジノオーナーに最近、日本でのカジノ解禁について意見を求められた。彼は実に日本の政治にも詳しく、今回の参議院選挙で日本がどのように成長路線に転換していくかにも、かなり踏み込んだ意見を持っていた。

 それと、フィナンシャル・タイムズなどの一流紙には、時を得た大局的見方を与えてくれる教養溢れる社説やコラムがある。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙でコラムを担当する友人の教養には舌を巻くことが多い。最近では、米国家安全機関(NSA)の諜報活動を暴露した米中央情報局、CIA元職員のスノーデン容疑者が騒動で、フィナンシャル・タイムズ紙が興味深い社説を掲載した。

 同紙は社説の中で「国家に永遠の友なし。あるのは永遠の国益のみ」という大英帝国の首相、パーマストン卿の格言を紹介し、時代は違っても国益のためのスパイ行為は、どのような国家でもやっていることだと書いた。人権やプライバシー侵害が取り沙汰され、冷戦でもないのにと批判する論調が多い中、歴史的な見方を与えた。

 変化が激しく、先が読みにくい世界をどう読み解くかは、リーダーにとって最も大きな課題といえる。それは日々行き交う表面上の情報の裏に何が潜み、どう読むかという問題でもある。安倍政権になって株価が急上昇した時、今後どうなるかで的確な予想をしたエコノミストは少なかった。事象の分析や解説はできても、行方を予想することは専門家といえども難しい。

 しかし、ビジネスの世界は、先を呼んで大胆な決断をすることが成功に繋がることが多い。今は特にリスクを負っても大胆な変革を行った企業が伸びている。その判断を下すには大局的な見方が必要だ。それはビジネスの知識だけでなく、もっと大きな見地からの見方が必要だ。

 だから、一見自分の仕事とは関係なさそうな分野であっても興味を持ち、日々、学ぶことが重要だ。欧米のリーダーたちのような多様な質の高い情報を集めながら、大局的な見地に立って目の前で起きる事象を見て分析し、物事を判断するスキルが今後はさらに重要になってくる。

安部雅延 7・17・2013記

アイザック・グローバルマネージメント研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

グローバルマネージメント研修

http://www.isaac.gr.jp/business_course/program_global.html