欧州のビジネススクールで、日本的経営の講義を担当して、受講者が最も拒否反応を示すのが、自分の直接の上司に対する日本人社員の働く姿勢だ。この問題が日本企業でのグローバルビジネス研修を担当して議論になったことがある。
日本的マネジメント手法に報・連・相があり、それが異文化で機能するかについては、このコラムで以前書いたことがある。報・連・相に慣らされている日本人従業員が海外で欧米人の上司とこの問題でトラブルになることもある。特に新しい自分のボスに対して、執拗なほど報・連・相を行い、ボスが困惑するケースが多々ある。
しかし、この微に入り、細に入る報・連・相は通常、日本企業内では3カ月程度続いた後、かなり手が抜かれるのが常だ。それは部下たちが新しいボスがどんな人間で、そんな考えを持ち、どのように仕事を進めるのかを見極めるための3カ月だからだ。
つまり、部下は上司を喜ばせ、評価されるために働くという側面が強い。それも上司の人間性や価値観、何にこだわり、何を喜び、何を嫌うかなど、およそ仕事と直接関係のない事柄を知ることが重視される。大企業に勤続35年の友人曰く「会社の業績を上げることを念頭に働く社員より、ボスの満足のためにボスの顔色を見ながら働く社員の方が圧倒的に多い」と言っている。
この話を欧米人が聞くと「絶対ありえない」「それは腐敗を生むのでは」と言い出す人もいる。例えばアメリカ企業の職場でも、上司に評価されることに部下は必死になる。ところが人間的に上司に気に入られようとする人間は「ごますり」と言って軽蔑される。
あくまで会社への貢献度を評価するのが、自分の上司の仕事であり、その評価で昇進や昇給が決まるという認識だ。ボスの音楽や食べ物の趣味など個人的な嗜好に興味を持つと勘違いされてしまう。それにボスのために働くというメンタリティは極めて薄い。
リーダーシップについてPM理論というのがある。P機能(パフォーマンス=目標達成機能)」とM機能(メインテナンス=集団維持機能)の2つの能力要素でリーダーシップの傾向を論じたもので日本人の三隅二不二氏が提唱し、世界的にも知られた理論だ。
この理論からすれば、日本はこれまで終身雇用や年功序列で、圧倒的にM機能重視で会社を運営してきた。ところが終身雇用も年功序列も機能しなくなり、なおかつ放っておいても会社や上司への忠誠心が当り前だった時代は、若者のメンタリティの変化と共に薄れている。
M機能が大きい時代には、親父的な上司が尊敬されたが、グローバル化が進む時代には、P機能の優先が求められ、同時に上司には、会社や上司に対する部下の忠誠心や組織への帰属意識に頼らないリーダーシップが求められる。その場合、当り前のことだが、上司ではなく、会社への貢献と個人のモチベーションを高める方法が重視されることになる。
安部
コラム21 9・21・2013記
アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。
グローバルマネージメント研修、海外赴任前語学研修