ハーバード・ビジネススクールのジョン・P・コッター教授は、1988年にリーダーシップとマネジメントの違いについての論文を発表し、注目を集めた。ハーバートでは史上最年少の34歳の若さで教授に就任した新進気鋭の学者は、変革の時代を察知し、ヴィジョンを掲げるリーダーシップの重要性を強調し、変革を実現するための8段階を提唱した。
あれから25年が経つが、コーター氏は最近もメディアのインタビューで、リーダーシップとマネジメントが混同して使われていると警鐘を鳴らしている。一流大学やアメリカのビジネススクールでMBAを取得した優秀な人材は高度なマネジメント知識を持っているが、リーダーシップは別物と言える。
継続的変革が企業に求められるようになって長い年月が経つが、コッターの唱えるようなリーダーシップ、つまり、変革を起こす人並み外れたエネルギーを持ち、組織の内外に存在する様々な人々と質の高いコミュニケーションを取りながら、人と組織を牽引する強いリーダーは、日本には見当たらない。
同時に、ヴィジョンを現実化するための具体的なアクションプランや人材配置という点でも、ヴィジョン自体が経営陣の“お題目”にしか過ぎないために、社員の心を動かせず、変革をもたらせないでいる。大企業であればあるほど、新任トップの打ち出すヴィジョンに冷やかな反応を見せる場合も多い。
マネジメントは、ある程度学習することで習得できても、変革をもたらすリーダーシップというのは、その人間そのものに関わることで、持って生まれた天性や生きてきた背景も大きく影響する。新卒採用で雇われて、組織人間としての評価が高いだけでリーダーになるのは危険性が伴う。
とはいえ、もっと問題の本質をはき違えている人も少なくない。世の中に万とあるビジネス本を読みふけり、毎日、経済紙を隅から隅まで読み込みながら、成功できない人は多い。日産のゴーン社長は、最近のインタビューで「グローバルビジネス・スキルは、5%の知識と95%の経験で習得できるものだ」と語っている。
無論、彼は5%の知識である理論を否定しているわけではない。それがなければ、ちょうど基礎を学ばずには、外国語の語学能力が伸び悩むのと同じような状況に陥るのも確かだからだ。しかし、著名な経営者や成功者、学者の言葉ばかりが頭に詰まっていても、現実に成果を出せない人はたくさんいる。
真のリーダーはヒトを見抜く能力があり、その発掘した人材との協業で変革と成長をもたらすというのが正統な考えだろう。ということは理論理屈よりも人間自体に関心を持ち、人間にとっての正しい生き方を模索して生きているような人間しかリーダーになるべきではないとも言える。
リーダーシップとマネジメントを区別する理論には、反対を含め、諸説あるが、どちらにしても人との質の高いコミュニケーションが、しっかり取れる人材を発掘し、養成することで組織の継続的な変革が可能になることは確かと言えそうだ。
安部
コラム23 11・18・2013記
アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。
グローバルマネージメント研修、海外赴任前語学研修