フランスのブルゴーニュ地方を旅したことがある。30年以上カリフォルニア・ワインを手がけてきた人物が、フランスのワイン・ビジネスに本格参入するための調査を手伝ったからだ。ディジョンからボーヌ、マコンに至るワイン街道を巡りながら、いくつもの伝統あるワイナリーを訪れた。

 ボルドーと並びワインの2大生産地であるブルゴーニュ地方の産出ワインは、ボルドーに比べれば圧倒的に少ない。その歴史は古く、多くは修道院で修道僧によって作られ、王侯貴族が群雄割拠する時代に接収され、さらに磨きが掛かり、世界的銘柄として圧倒的ステイタスを持っている。

 そんなワイナリーの一つで、名前は明かせないが某名門ワイナリーを訪れた時の話である。オーナー社長に面会し、息子にワイナリーを案内された後、彼らが昼食に招いてくれた。日本企業との取引に彼らなりの魅力を感じていたからだろう。

 そこで聞いた話は、予想以上に実りのある内容が含まれ、感銘も受けた。その内容の一つは、世界的に名の知れた圧倒的なブランド力を誇る銘柄ワインを造り続ける老舗とは思えない謙虚で真剣な態度だった。特にグローバル化への対処に必死に取り組む姿勢も印象的だった。

 周知のとおり、フランスを始め、ドイツやイタリアなどのワインは最古参の存在であるわけだが、そこにカリフォルニア・ワイン、チリ・ワインなどが参入し、安泰とは言えない状況が、この20年間続いている。そんな中、過剰生産したボルドー・ワインが最初にダメージを受け、その後、ブルゴーニュ・ワインにも影響は及んでいる。

 さらには外資の参入が激しく、一昨年は中国人のカジノ経営者がブルゴーニュの老舗ワイナリー、シャトー・ドゥ・ジュブレ・シャンベルタンを買収して話題になった。その意味では老舗ワイナリーが暖簾に寄り掛かったような経営は許されない状況もある。

 社長の話に戻せば、まずはワインの質向上のために資本投下を繰り返していることが上げられる。千年以上の時を刻んで、そのノウハウが蓄積されているはずのワイナリーだが、ワインの質向上には、まだまだやるべきことが多いと言う。そのための設備投資、研究投資、人材育成投資を怠らない。

 さらにはグローバル市場をにらみ、アメリカの大手流通企業との連携などに積極的に打って出ている。そのために一流ビジネススクールを出た優秀な人材を雇用し、国際市場の開拓に余念がない。そして何よりも感銘を受けたのは、社長の非常に謙虚な姿勢と、どこからでも新しいものを吸収し、向上していきたいという志の高さだった。

 あらゆる組織は、あるレベルに到達し、社会的にも高い信頼と評価を勝ち取ってからが難しいと言われている。特に創業者から何代も経った企業は、そのブランド力に寄り掛かり、保身に走りやすい。そのことからすれば、老舗にあっても傲慢にならず、イノベーションを怠らず、挑戦を繰り返すトップの果敢な姿勢こそが、組織に圧倒的活力を与えるのは間違いのない事実と言えよう。

安部

コラム25 1・16・2014記

アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

グローバルマネージメント研修、海外赴任前語学研修
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