【今月の海外赴任道コラムVol.27】
ウクライナのクリミア半島をロシアが軍事力で奪還しようとしている今、グローバル化の先行きが怪しくなっている。外交交渉はビジネス交渉にも大いに参考になる事例だが、この20年間、交渉術の最前線を支配してきたハーバート流交渉術の効果が疑われる事態に陥りつつある。
というのも冷戦という特殊な状況が終了し、あたかもアメリカが牽引する資本主義が勝利したように言われ、グローバル化を当然とする空気が支配的だったのが怪しくなっているからだ。20世紀の2つの大戦や冷戦の反省から弱肉強食で勝者と敗者を生み出す交渉ではなく、ともに相互の創造的価値を生み出すWIN WINの関係構築が支持されたわけだが、そのロジックから逆戻りしている。
強烈なナショナリストのロシアのプーチン大統領は「欧米諸国は堕落し、国家の基盤である家族の価値観を失い、個人の私利私欲だけがむき出しになっている」と批判し、「ロシアが世界に対して国の理想の価値観を示すときだ」と主張している。家族の価値などと言いながら、ウクライナ人の家族を恐怖にさらしているあたり、矛盾しているが、欧米先進国は手をこまねいている。
冷戦に勝ったとされるアメリカは、自分たちが信じる自由市場原理が世界に広がり、ビジネスのグローバル化が加速することで、世界は経済相互依存関係を深め、平和が訪れると信じている。しかし、経済力をつけた中国にしろ、大国への復活をめざすロシアにしろ、彼らにあるのはナショナリズムだけだ。つまりアメリカが考えるシナリオ通りにはなっていない。
安部首相は北方領土問題で、そんなロシアと良好な関係を維持、発展させなければならない一方、先進8カ国の一国として、軍事力で他国の領土を侵害する行為を認めるわけにはいかないジレンマの中にある。そのため欧米先進国の対ロシア強行路線には全面的に加われない状況だ。
実はこれがどれほど欧米先進国から不信感を持って見られているか日本人は知らない。日本が対ロシア制裁で欧米と足並みを揃えないことは、日本の尖閣諸島や竹島、北方領土が軍事的攻撃を受けた時に、欧米諸国が助けてくれない事態も想定される。
韓国からの攻撃についてもハーバート流交渉術でいえば、一つの事項、すなわちワインイシューだけで交渉するのはNGなのだが、従軍慰安婦問題を相手が持ち出したことに振り回されている。交渉術で言うクリエイティブオプションを提示できていない。
それに交渉術で有効とされる相手の利益に注目するという交渉鉄則からみるとアメリカにしろ、欧州にしろ、自国の国益には関心を払っても相手国の利益に注目することはしていないように見受けられる。たとえば、アメリカはロシアや中国の国益を何か十分理解していないし、日本も中国や韓国のめざすところが十分には見えていないように思える。
ただ言えることは、欧米及び日本で構成される先進国グループは、相互依存で共存共栄のヴィジョンをある程度共有しているが、その他の国にはそんなヴィジョンはないということだ。これがグローバル化に脆弱性をもたらし、世界は大きな試練に直面している。
安部
コラム27 3・16・2014記
<たかが商人、されど・・・>