【 今月の海外赴任道コラムVol.29 】

   

韓国の客船沈没事故の実態が報じられる毎に、船長や乗務員、船会社、オーナー、役人によるモラル・ハザードの恐ろしさを痛感させられる。しかし、あまり指摘されない事だが、多くの乗客、特に高校生たちが艦内放送に従順に従い、最期まで動こうとしなかったことが注意を引いた。


 実は筆者自身、韓国とは40年に人的付き合いがあり、1980年代には某月刊誌の「昇竜韓国」という特集で政財界、文化人に片っ端からインタビューしたこともある。当時のサムスンの研修センターも取材した。そこで聞いたり、知ったりした韓国人の行動特性からすると、今回の沈没事故での乗客たちの行動は非常に不可思議な気がした。


 韓国人の行動特性は、一般的に何か危機が迫った場合、四方八方に逃げ出すので誰かが生き残るというのが通説だ。中国やロシアという大陸の大国と日本に挟まれ、侵略を受けてきた韓国が、歴史上消え去らなかったのは、主体性が強く独自的判断で行動する国民特性があったからだとまで言われている。


 実際、韓国に進出している日系の大手総合化学メーカーやガラスメーカーの研修を行った際、筆者は何度も韓国人の独自的行動に悩まされていることで相談を受けた。しかし、多数の高校生が亡くなった事故では、韓国人の行動特性は違っていた。知遇のあるソウルに住む韓国人の解説では、一昔前の高校生なら、もしかしたら勝手に判断して逃げ出したかもしれないという。


 その一方で儒教の影響を色濃く残す韓国では親の言うことは絶対だし、学校では先生に従うのは当然とされ、さらには先輩後輩の関係も厳しいから、艦内放送に従順に従い逃げ出さなかった可能性もあると解説してくれた。つまり今の韓国の若者は独自行動よりも従順さが勝っているという話だ。これは韓国のマスコミでも指摘されているようだが、平和と豊かさの中で育った若者の傾向らしい。


 北朝鮮との緊張関係の続く韓国の若者は、日本の若者より強靱な精神を持っていると思っていたら、実は日本の若者のような文明病が蔓延し始めているということなのだろうか。自分で考え判断し、行動に移せる若者がいないのは日本だけではなさそうだ。


 次の時代を担う若者たちを育てるのがリーダーの責務だとすれば、現状は非常にリーダーには厳しいはずだ。東日本大震災では校庭に集合させられた生徒の前で校長と教頭がもめているうちに、ほぼ全員が津波に飲み込まれた話はよく知られる。他方、マニュアルにはない独自の行動で山にかけ上がって助かった小学生の例もある。


 現在、企業はグローバル化の渦の中で高いリスクに晒されている。企業が沈没しそうな時に経営者と幹部が、そっと逃げ出すようなことは許されない。適切な状況分析と決断、身を挺して迅速に行動に移すリーダーこそが企業を救う。さらには次世代の人材には上司への従順をたたき込むより、危機への即応能力を身につけさせる必要に迫られているのではなかろうか。

安部雅延


コラム29 5・15・2014記
<文明病とリーダーシップ>
アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

グローバルマネージメント研修、海外赴任前語学研修
http://www.isaac.gr.jp/business_course/