【今月の海外赴任道コラムVol.30】
フランスの生活が長い筆者から見て、日本人との働き方の違いは非常に大きい。
まりにも違い過ぎて比較することすら意味がない。
一般的にフランス人は私生活を楽しむ天才と言われ、逆に日本人は私生活を犠牲にしてでも働くことが人生の中心というステレオタイプのイメージがある。
確かにフランス人の働き方、あるいは生き方は日本人とは大きく違う。たとえば仕
事とプライベートの境は明確で、職場の外では会社の上下関係は存在しない。会社のために私生活を犠牲にするフランス人も少ない。ただ、職位によって労働観は大きく異なる。労働者階級は与えられた仕事を就労時間内でこなすだけだが、管理職は成果を出すためなら残業もする。
日本の場合は、仕事そのものよりも会社という組織に自己を埋没させ、帰属意識、
愛社精神が、私生活より優先させる度合いが非常に高い。無論、今では育児に積極的に関わる男性が増え、滅私奉公的に完全に私生活を犠牲にする働き方は弱まりつつある。会社への忠誠心や愛社精神も弱まりつつある。
この状況変化は日本のマネジメント手法に大きな変更を迫っている。管理職側は古
い組織忠誠型マネジメントしか経験がなく、部下の私生活に十分に配慮しながら、限られた時間内に仕事で部下が成果を出す指導スキルの訓練は受けていない。つまり組織よりは個人に軸足を置く欧米型のマネジメントスキルは、訓練されていない。
日本人が滅私奉公的メンタリティーを持つのは歴史的にさまざまな理由が考えられるが、筆者はこれを「下僕の精神構造」と呼んでいる。ご主人様の顔色を伺いながら、主人の指示に忠実に従う従順な下僕が評価されてきた過去があるからだ。そこには主人の為に自分を無にして身を捧げる自己犠牲の精神と組織(ムラ社会)を首になることを恐れ、主人に媚びへつらう卑屈な精神が混在している。
私が知る限り、他国の誰よりも日本人は組織の前に自分を殺して生きることができ
る民族と言えそうだ。これは組織やリーダーには都合がいいが、今では妻もフルタイムで働き「育児や家事は女性の仕事」という意識も支持されず、従来の「夫は家の大黒柱、妻は夫が存分に働けるよう夫を支え、家に責任を持つ」というスタイル自体、物理的にも意識的にも継続不能な状況が訪れている。
多様性重視で注目される女性社員たちは、男性よりは会社への忠誠心が薄く、仕事
と私生活の両方をしっかり充実させたい考えが強い。男性も家事や育児へ関与する時間が増えている。結果的にヒトのマネジメントは、パフォーマンスを出しつつも社員の私生活も充実させていくことが求められている。
だが、問題は物理的な環境変化の問題とは思えない。育児への関与を求める妻から
足を引っ張られる男性たちとキャリア志向の女性たちの意識がどう変化していくかだろう。組織への忠誠心と個人や家庭生活の充実という両者のバランスは、日本人の幸福感や価値観そのものに関わる問題だからだ。私は日本の再生は、日本人の幸福感のレベルアップが鍵を握ると考えている。
安部
コラム30 6・16・2014記
<日本人の幸福感はレベルアップするのか?>