【今月の海外赴任道コラムVol.32】
中国の食肉加工工場で、床に落ちたチキンナゲットの原料を生産ラインに戻し、青く変色した肉を原料として使い続ける画像がテレビで放映され、日本では大騒ぎになった。問題の製造現場は上海福喜食品の生産ラインのものだった。
食の安全に敏感な日本人は、その光景に驚愕させられたが、実はこの問題はグローバル企業に投げかけられた大問題でもあった。上海福喜食品と言えば、世界17ヵ国に50の工場、肉類加工業では世界最大規模とも言えるアメリカのOSIグループの子会社だ。
この企業を知る関係者は、報道に驚いた一般市民以上の衝撃を受けたと言われている。その理由は世界最大規模のアメリカ肉類加工会社が起こした不祥事だったからだ。無論、この企業の生産ラインの問題は、中国マスコミの潜入取材で発覚したもので、多くの腐敗が指摘される中国で起きたことだ。
しかし、問題は中国に止まらず、日本マクドナルドやファミリーマートも同社から鶏肉加工食品を輸入していた。つまり、食品管理にいい加減な中国国内だけでなく、世界で最も食品基準に厳しいはずの日本へも輸出していたグローバル企業だった。
報道によれば、不正行為は生産ラインだけでなく、2重帳簿など経理にまで不正は及んでいたとされる。食品を輸入していた日本企業は、アメリカ傘下の巨大企業が運営する工場からの輸入ということが製品への信頼に大きく影響していたのは想像に難くない。
今回の問題は、グローバルに展開する企業のローカリゼーションの難しさを象徴する事件だったといえる。企業が生産拠点を安価な労働力を確保しやすい国に移して、すでに長い年月が経っている。今では、それらの生産拠点である国々が経済成長し、市場としても大きな可能性を示している。
このような状況の中、グローバル企業は自国と同じような品質の製品やサービスを、世界のどこでも提供することを目指している。上海福喜食品の場合は、責任門だという点では最終的にはOSIグループが叩かれることになる。食品ビジネスで言えば、各国で異なる衛生観念、安全基準を一定水準で管理する必要がある。
そこには一般に言われるグローバルマネジメントが適応されるべきだ。上がってくる報告を簡単に信じることなく、自らチェックする機能が必要だ。それも全プロセスで継続的に行う必要があるし、人材を育てることへの投資も必要だ。ところがグローバルなマネジメントにおいては実際、人は見えにくい。上から圧力さえ加えれば、いい結果が出せるという考えも妥当とは言えない。
欧米のマネジャーには、そのような考えを持つ人間が多いが、圧力を加えられたナショナルスタッフは、求められた結果を出すために手段を選ばないという行動に出ることが多い。結果に至った過程は正確に報告されず、結果として、今回の様な事件が発生してしまうことになる。
グローバルな人の管理は非常に難しい。異なった文化的背景、価値観、行動様式を持つ人々の協業は、グローバル企業を多く抱えるアメリカでもうまくいっていない。透明性の確保、フィードバックの質向上など、グローバルに人をマネジメントする改善を継続的に行う努力が必要になっている。
安部
コラム32 8・26・2014記
<グローバルな人のマネジメントの難しさ>