【外国人との労働観の共有の難しさ】
日本で大企業に勤めれば、与えられた仕事を黙々と一生懸命こなすことが求められる。入社後30%の社員が3年以内に辞めると言われて20年以上が経つが、その最大の理由は自分がやりたいことと現実が違っていたからだと言われている。
裏を返せば、やりたくないことでも黙々とやり続けることを受け入れるのがサラリーマンになること、社会人になることだと言い換えることもできる。人生自分のやりたいことを仕事にできているのは全体の5%とも言われているわけだから、現実はそうなのかもしれない。
しかし、それは人の受け止め方の問題であって、皆が不条理なことを強要する職場を仕方なく受け入れて働いているわけではない。ただ、日本人は欧米人に比べ、総じて公私の境が曖昧なためにやりたくないことをやらされる職場を受け入れることを人生観の中心に置く人も少なくない。
つまり、人生の中心を個人や家庭の幸福を追求することよりも会社に置いている場合が多いという話だ。
そんな日本のサラリーマンが海外に出て多文化のグローバル環境で働き、さらにはリーダーシップを発揮するという話は、実はハードルが高い。
なぜなら欧米人のみならず、中国人を初めとするアジアや南米、アフリカの人々と日本人は人生観や労働観を共有するのが難しいからだ。
【思考力と決断力】
リーダーシップという意味で、もう一つ難しいのが、思考力、決断力の問題だ。
これまで何度も書いたが、グローバルな現場では自分で考え、自分で決断する場面が多くなる。同質性の中で総意による意思決定をしてきた日本人リーダーにとっては新たな課題だ。
グローバルな現場では基本的に職位や権限に応じて責任、評価が求められる。全体野球的発想、責任を曖昧化する体制では組織を動かせない。
そのため人の上に立つ者の思考力、分析力、判断力、責任のとり方は、日本国内とは異なり、より厳しいものになる。現場で遭遇する課題に対して一人で考え抜くスキルがまず要求される。
日本本社に判断を仰ぐといっても、自分が十分な判断材料を提供しない限り、いい判断を受け取ることは難しい。ましてやスピードが求められるグローバルビジネスでは、孤独に自分で考え、決断するしかない。
ところが日本にいる時にそんな訓練を受けるチャンスは少ない。上司から与えられた仕事を正確にこなすことだけを求める会社は多い。
裁量が与えられ、自分で想像力を駆使し、成果を出すような体制にある大企業は決して多いとは言えない。全体で盛り上げていく日本式チームワークに慣らされている。
優れたものをたくさん持っている日本の企業人だが、グローバルステージでは多くを改善する必要がある。個人の能力を最大限生かすような組織作りができなければ、優秀な人材はあっと言う間に離れていってしまうのが海外の現実だ。そういう組織運営を日本で経験していない場合が多い。
【グローバルビジネスでの姿勢】
グローバルビジネスでは、まずは相手を理解することが重要で、相手の価値観に沿ったやり方を尊重する所から入るのが懸命だ。そしてある一定の人間関係が構築された後に、日本の優れたものを慎重に導入することで成功している企業もある。
最初から日の丸を立てて一方的に押しつけるやり方も、相手に合わせるだけの方法もうまくいかない。
グローバルビジネスは日本人にとってだけでなく、相手にとってもこれまで経験したことない新たな現実だ。だからクリエイティブマインドを持って、多文化のシナジー効果を発揮し、新しい価値を創出するという姿勢が重要だ。
安部雅延