【今月の海外赴任道コラムVol.35】


この数年流行のダンバシティという言葉が意味するものは、ゼロベースで物事を考
えられるということだ。言い換えれば、同じような発想、価値観を持つ人間だけが集まっても限界があり、たとえば変化が激しく、多様性が求められる市場に適応した製品やサービスを投入するのに適さないという話だ。


 これは製造業やサービス業だけの話ではなく、一般的にビジネスを進めるあらゆる
場面で多様性は求められている。同質性の強い日本で生まれ育ったわれわれ日本人にとっては、新しい課題と言える。また、リーダーにはダイバーシティからシナジー効果を出すためのマネジメントスキルが求められている。


 そこでまず、日本人の強みと弱みを国際的視点から整理しておく必要がある。無
論、ステレオタイプのイメージ化はグローバルビジネスには適さないが、長所を伸ばし、短所を克服するのが成功の鍵だとすれば、グローバルリーダーが常に頭の隅にインプットしておくべきものでもある。


 まず、日本人の強みとしては忍耐強く、言われたことを細部に渡り正確に丁寧に実
行できる。仲間意識が強く、チームワークが容易。以心伝心、暗黙の了解、空気が読める(迅速な情報伝達)。状況さえ共有すれば認識は共有できる。性善説で誠実さが期待できる。礼儀正しい。報・連・相が容易で進捗が管理しやすい。年功序列や先輩後輩の関係があり、職位の上下関係が円滑に機能しやすい。


 以上のようなことは諸外国からも指摘される。この長所は時に短所にもなるが、日
本の労働の質の高さ、人間の質の高さを表すものでもある。では、弱みはどうなのか。日本人の短所として諸外国から指摘されるのは、ます、個性や個人力が弱く、創造性が足りない。調整型リーダーで、事業の枠組みやヴィジョンを示せない。全体優先で個人のスキルを発揮する組織作りが苦手などが挙げられる。


 さらに、相手を気遣い、イエス・ノーや自分の意見を言えない。文化や価値観を超
えた論理的思考、異文化間コミュニケーションが苦手。以心伝心が習慣化し、フィードバックが手薄で意思伝達の確認作業が徹底しない。手段が目的化してしまう傾向が強い。言われたこと以上のことをやるチャレンジ精神が不足。性悪説によるリスク管理が苦手。ミスは認め謝る一方、改善への意志を示せない、などだ。


 どこの国の人間も、その国で長い間に培われた慣習や価値観、メンタリティが深く
われわれの中に刻まれている。日本人の長所は、過去においては非常に有効に機能し、組織全体が正確な精密機械のように動き、日本企業の急成長と日本経済の発展に大いに貢献した。


 たとえば最近、仕事で訪れた南米では、百年以上前から日本人が入植し、主に農業
で基盤を築いたことは知られている。一方、中国人や韓国人も同じ時期に入植したが、厳しい自然環境に耐えきれず、大都市に移動し、物を売ったり、レストランをやるなど現金収入のある仕事に移行していったという。だが、彼らはあまり評価されておらず、忍耐強く農場を開拓した日本人が最も尊敬されている。


 その意味で地味な努力を惜しまず、まじめに働く日本人の労働精神は大いに評価さ
れる。しかし、国力が弱まると弱点の方が目につくようになる。だから長所は大切に保持しながらも、弱点を克服することこそが今、最も必要とされていることと言えないだろうか。それがダイバシティを活かすリーダーシップであり、マネジメントスキルということになるという話だ。


コラム35 11・19・2014記

<弱みを克服するリーダーシップ>

アイザック・グローバル人材育成研修講師。パリを拠点に欧州をカバーする国際ジャーナリスト。フランス・レンヌのビジネススクールで10年以上、比較文化、グローバルマネージメントの教鞭を取る。グローバルビジネスコンサルタント。グローバル企業の研修講師(研修先、日産、日立、ニチレイ、日本ガイシ、日本通運、HSBSなど外資系企業)。著書『日本の再生なるか』(財界通信社)、『下僕の精神構造』(中経出版) 訳書『愛するモンサンミッシェル』(ウエストフランス社)など。

グローバルマネージメント研修、海外赴任前語学研修
http://www.isaac.gr.jp/business_course/